このピアカウンセリングは、エファジャパン、現地政府協力機関のハイフォン市ソーシャルワークセンター、民間の障がい者団体ハイフォン市生活独立クラブが協力して行っています。
ベトナムで活動する海外NGOは現地の政府機関を協力機関として一緒に活動することが義務付けられています。
上(政府)が下(市民)を先導しての地域参加(=地域動員)という概念が強くあるベトナムの政府機関にとって、皆で民主的に思いを共有するピアカウンセリングの実施は決して興味深い活動とは言えません。
そのため政府機関も協力しての、特に農村部の障がい児の保護者を対象としたピアカウンセリングの実施はベトナムでも新しい試みだと思います。
ピアカウンセリングを実施する準備にあたって、ハイフォン市ソーシャルワークセンターからは、「ファシリテーターは仕事に就いて自立した生活をしている障がい者のモデルになれる人が務めるべきだ」、ハイフォン市生活独立クラブからは「仕事に就いているかどうか、障がい者のモデルとかは、ピアカウンセリングに関係ない」など意見の相違はありましたが、それでも当センターの職員はベトナムの機関の中では比較的オープン・マインドの人達なので、ピアカウンセリングを実施できる運びとなりました。

障がい者当事者同士によるピアカウンセリングは、日本財団がベトナムの障がい者団体で研修などの実施を支援していたそうです。
今回ファシリテーターを務めたハイフォン市生活独立クラブの2名も身体障がい者ですが、彼女らも日本財団の支援でファシリテーターとしての研修を受けたことがあり、自分達のクラブのメンバー間でも定期的にピアカウンセリングを実施しているということです。
しかし、ピアカウンセリングは都市部にある民間の障がい者団体内だけで行なわれることが多く、そこから広まっているとは言えません。その理由としては、農村部では障がい児者やその保護者が集まる機会がないこと、行政を通じて集めるのは手続きなど複雑な事、行政自体が熱心でないことが挙げられます。
障がい児の保護者と話をしていて大抵求められるのは、通院費や手術代、生活費の支援です。
今回初めて農村部の保護者にピアカウンセリングを実施するとあって、趣旨をよく理解していない保護者が、これらの費用の支援を求めてきて、共有すべき話・テーマから逸脱してしまうのではないかという懸念がありました。
ピアカウンセリングの最中実際にそのような話もでてきましたが、ファシリテーターの2人が、自分達で今出来ることを話し合うような流れを作ろうとします。自分の子どもへの思いを吐露することで、泣き出す保護者もいました。
ベトナムの農村部の大人達は皆で集まって討論したことのある経験もあまりなく、まだ慣れていないとあって、今回のピアカウンセリングでは皆で話し合うというよりは、ファシリテーターの問いかけに一人ずつが答えると言う感じで進行しました。
ハノイやホーチミンの都市部ではパソコンやスマートフォンを駆使し、障がい児の保護者同士が連絡を取り、自分達で親の会を結成し、障がい児のための様々な活動を行なっています。親の会のメンバーの教育水準も高く、英語や日本語ができる保護者も少なくなく、海外から情報や支援を積極的に集めています。
一方、農村部の保護者は工員や農民、日雇い労働者の人達が少なく、経済的に厳しい状況下にあります。上(政府)から言われて何かをすることには慣れていますが、新しいことを自分達で始めることには慣れていません。
都市部のように当事者たちが自らの意思で集まって何か活動が始まるようになるには、まだまだハードルは高いようです。

ピアカウンセリングを実施し続けることで、保護者達をエンパワメントすることができるのか、何か変えることをできるのか或いは何も変わらないのか、手探り状態です。
ただ、障がい者当事者団体であるハイフォン市生活独立クラブの協力を得て、ベトナムの農村部で始めてみるのは貴重な一歩であることは間違いないと思います。
(崎)